家づくりをするにあたって、多くの方が避けては通れない住宅ローンの選定。
家づくりの方法が違っても、例えば、建築家に依頼する方法以外にも、ハウスメーカーで注文住宅を建てるにしても、建売住宅やマンションを買うにしても、住宅ローンに関しては金利や手数料の差以外は変わりはなく、どこでも同じだと思われていませんか?
建築家に依頼する場合、ハウスメーカーや工務店に依頼する時と同じような手順では住宅ローンで借りられません。
正確に言うと、建築家に依頼する場合、ハウスメーカーや工務店に依頼する時と同じような手順でしなくてはならないので、簡単には借りられません。
貸す側の金融機関の都合上、建築家との家づくりの手順では住宅ローンが受けにくいのです。
ここでは、なぜ建築家との家づくりと現状の住宅ローンの相性が悪いのかという理由と対処方法をお伝えします。
建築家との家づくり、住宅ローンに潜む3つの障壁
●第1の壁・・・設計と施工を、別々の契約で依頼する。
●第2の壁・・・土地の取得も住宅ローンで借りて準備しようとする場合、設計の契約よりも先に土地の契約をする必要がある。
●第3の壁・・・住宅ローンには、建築工事の有効期限がある。
家づくりを多少でも始められていると、これらの意味が少しは分かるかもしれません。
ここでは、全く知識がなくこれから始められる方にも、分かるように解説します。
これらを知っていただくことで、建築家に家づくりを依頼する場合のメリットや注意しなければいけないことも見えてきます。
また、ハウスメーカーや建売でお考えの方も、住宅ローンをより条件の良い金融機関で借りることができるヒントとなるはずです。
第1の壁・・・設計と施工を別々の会社に依頼する。
建築家との家づくり以外の方法、ハウスメーカーや地元の工務店、ビルダーと言われる工務店のチェーン店等に依頼する場合は、設計を施工会社に依頼する形式となります。
これを「設計施工方式」と言います。
一方、建築家に家づくりを依頼する場合は、設計は建築家(設計事務所)に、工事は別に工務店に依頼することになります。
これを「設計施工分離方式」といいます。
家づくりをする場合において、この方式のどちらを選択するのが良いかは、また別のコラムでお伝えしますが、どちらにもメリット・デメリットがあります。
特徴を理解した上で、家づくりの検討の材料にしていただければと思います。
ここでは、まずこの2つの方式があるということをご理解ください。
その上で、今の日本の住宅ローンのしくみは、「設計施工方式」で建てる方向けに考えられているということです。
住宅ローンは基本的には、自分で居住する住居にのみ貸してくれる融資です。
賃貸用の住宅とか、勝手に民泊にしたりする目的の住宅には貸してくれません。
その上、何千万ものお金を貸すわけですから、ご本人の居住の確認ができた時点で住宅ローンの融資を実行してくれます。
つまり、工事中は貸してくれないのが原則です。
では、その間はどうなるのか?
それが、金融機関の判断でその土地には間違いなく住宅を建てるだろうという場合、つなぎ融資と言われる住宅ローンとは別の融資で、工事中の資金を貸してくれます。
工事中の支払いはそこから融通し、完成して正式な住宅ローンで融資をうけられた時にそのお金でつなぎ融資を返済するという仕組みです。
外部から見ると、同じ金融機関内でお金をぐるぐる回している無駄な仕組みだと感じますが、貸す側のルールと言われれば仕方ありません。
しかも、つなぎ融資にもしっかり金利はかかります。この金利は結構高め、短期ではありますが、さすが金融機関はしっかりしています。
なおかつ、土地の購入も同じ住宅ローンに含めようとすると、仕組みは複雑になります。
こうなると、金融機関からすると一番手間がかからず貸しやすいのは、建売やマンション。
工事途中の資金は建てる側が用意しますから住宅ローンには関係ありません。
引き渡しの時=融資実行日
となりますから、手続きとしては楽にできます。
「設計施工方式」での注文住宅であれば、施工費用の支払いは、着手金、中間金、最終と3回に分かれます。設計費用は工事費に含まれる、または一つの契約にまとめられているので、この3回の支払いのなかに含まれているため、別途支払う必要がないのが一般的です。
ところが、建築家に依頼する場合は「設計施工分離方式」となり、設計と施工が別の契約であるということは、支払いのタイミングも2通り必要になります。
建築家に支払う設計料は、着手金、中間金、最終と3回に分かれるのが一般的です。
工事費の支払いと合わせると、合計6回程度の支払いタイミングになります。
これに、土地の融資も増えると・・・。
こう見るだけでも手間がかかるのが分かります。
結果、住宅ローンは「設計施工分離方式」向きではないと思われています。
これが、第1の壁です。
第2の壁・・・土地の取得も住宅ローンに含めたい場合、設計の契約よりも先に土地の契約をする必要がある。
土地の取得資金も、住宅ローンでお考えの方には特に大きな障壁となります。
家づくりの順番で言うと、「設計」→「施工」というのは、正しい順番です。
正当な順序での家づくりの順番のはずなのに・・・。
ここで、もう一度、住宅ローンを貸す金融機関からの目線で見てみます。
お金を貸す側の金融機関は、出来上がったもの、出来上がるだろうカタチが明らかなもの、つまり「図面がある=計画がしっかりしている」ものには貸しやすいのですが、これから設計をする、「影もカタチもない=計画がハッキリしていない」ものにはお金を貸しにくいという実情があります。
そして、建築家(設計事務所)側の考えもお伝えします。
建築家(設計事務所)は、
”土地があり、その土地に最適な建物を設計する。”
これが仕事です。
インターネットなどで、お気に入りの建築家を見つけて、いざ建築家(設計事務所)に訪問し、
「私の住まいを設計してください。」と言っても。
「土地はどこですか?どのような広さですか?」
となります。
土地が決まっていなければ、予算やお施主さんの要望を聞く以前に、何をどうすれば良いのか・・・。
ほとんどの建築家(設計事務所)は、
「土地が決まったら、また来てください。」
と丁重に、笑顔でお引取り願うでしょう。
では、土地を決めよう!!と頑張って目星の土地を見つけたとします。
その場合、不動産業者も支払いのお金がしっかり確認できないと契約はしてくれません。その根拠の一つが、住宅ローンの審査が通っているということになります。
そこで、金融機関に相談に行くと、
「家の計画(図面)を持ってきてください。」
「工事の契約書か、見積書を持ってきて下さい。」
と言われます。
???
建築家(設計事務所)からは、土地が決まったらまた来てくださいと言われる。
でも、正式にはまだ決まっていない。
金融機関に行くと、住宅ローンの審査には図面と見積書を持ってきてくれと言われる。
でも、建築家(設計事務所)とは契約していないので図面がない。
図面がないのだから、当然建物の見積もりもできない。
一体どうすればいいの???
これは、建築家との家づくりにおいては、たいへん大きな障害となります。
ここが、つまずいてしまう大きな原因の2つ目の壁となります。
とは言っても、年々金融機関も住宅ローンの競争は激しくなっているため、様々なサービスが出てきています
その中の一つが、土地融資を先に借りることができる「土地先行融資」です。
この方法には各金融機関によっても違いはあります。
先程のつなぎ融資にも似ていますが、正確には全く違います。
つなぎ融資とは、土地だけに先に一旦融資をして、最後建物の引き渡しの時に全体を融資して同時に土地の分は返済してもらうという形式のものです。
ただし、これには土地のつなぎ融資をした時の期間に合わせた金利が発生します。
つなぎ資金の金利は、結構 高く設定されるという難点もあります。
一方、「土地先行融資」とは、土地を購入するタイミングで全体の住宅ローンを一旦融資し、同時に土地代金以外はすぐ金融機関が預かり、金利と同時に利息も発生させ、つなぎ融資の金利を負担しなくても良いというというサービスです。
このように、様々な状況でも融資できる住宅ローンができる金融機関も増えてきました。
第3の壁・・・住宅ローンには、建築工事の有効期限がある。
金融機関は、住宅ローンの本契約である金銭消費貸借契約から、実際に融資を実行する決済(完成引渡し)までの期間を6ヶ月としているところが多いです。
土地が決まり、計画が決まり、融資額が決まり、工事期間は6ヶ月以内ということになります。
ところが、建築家に依頼すると設計の期間、その後の施工の期間を合わせると平均して1年くらいはかかってしまいます。
つまり、工事期間は6ヶ月以内というルールの金融機関の住宅ローンは使えないということになります。
なぜ、6ヶ月という期間が設けられているのでしょう。
これは、住宅ローンが一昔前のハウスメーカーと直結していた頃の名残かと思います。
ハウスメーカーによる家づくりが一般化したのは40~50年ほど前、サラリーマンが給料で夢のマイホームを手に入れやすくするために、大量供給のハウスメーカーと、その頃は高度成長期で安定した借り手であったサラリーマン向けに両者の顧客が一致したため、住宅ローンはハウスメーカーにとって利便性が良いようになっていきました。
ハウスメーカーは、当時はプレハブと言われ、とにかく早く建てて引き渡すことが第一使命とされていましたから、6ヶ月もあれば設計から施工まで出来てしまうわけです。
金融機関も、契約した後ズルズル時間がかかるより、期限を決めてしまったほうが早く融資でき、つまり早く回収でき金利収入も生まれるわけです。
そのため、6ヶ月という期間がつい最近まで主流となっていました。
最近、ようやく6ヶ月という期間を12ヶ月とする所も増えてきましたし、進捗が明確であれば2年、というところまで出てきました。
借りる側が、その金融機関の住宅ローンがどのようなルールなのかを調べ、確認しなければなりません。
この住宅ローンの有効期限が、つまづく原因である3つ目の壁となる訳です。
建築家との家づくりでの住宅ローンに必要な3つの条件
建築家との家づくりの住宅ローンには、3つの条件がある。
・注文建築になるため、建物費用を分けて支払う「分割実行」ができる。
・土地融資を先に借りることができる「土地先行融資」ができる。
・住宅ローンは有効期限に注意!
建築家との家づくりの場合、この3つが融通できる金融機関を探す必要があります。
逆に言えば、この3つの条件を満たせば、できるという事です。
では、どうこの壁を乗り越えるか!!
ここからは、解決策をお伝えします。
借りやすい手順とは
最初にお伝えしたとおり、建築家との家づくりの場合、従来の住宅ローンとは金融機関側の都合もあり、相性があまり良くありません。
知らずに金融機関に行ってしまうと、選択肢はあまりなく、何とか借りられる、ということも多々あります。
しかし、手順を整えることにより、建築家との家づくりもハウスメーカーや建売から買うときと同じ様に、借りる側が条件の良い住宅ローンを選べるようになります。
その手順とは
1.生涯の資金計画の中から住宅資金を決める
銀行から〇〇〇〇円借りられるから、建物の予算は〇〇〇〇円にする。
これは一番ダメな資金計画です。
右肩上がりの時代ではありません、しっかりご自身の資産計画を建てずに安易に貸す側の条件を鵜呑みにしてはいけません。
将来、老後破産の危険性があります。
金融機関は、担保としている土地・建物をさっさと回収して終わりです。
まず、生涯の資産計画から、住居費は総額●●●●円。
将来のメンテナンス、リフォーム費、などを勘案して、結果、新築にかけられる資金は◎◎◎◎円と算出しなければなりません。
その上で、住宅の依頼をする際に、ご自身で決められた建設費の範囲で、要望を叶えてほしい!
「この予算で、こんな要望を叶えてほしい!」
という、前向きな発注ができます。
建築家の方も、根拠がある予算を指定していただいた方が進めやすいのです。
予算がはっきりしていれば、その中で要望を叶えるよう最大限の知恵を絞ってくれます。
一方、
はっきり予算を言ってもらえないお施主さんには、
「この方は、一体予算はいくらなんだろう?」
「こんな提案をするとお金が掛かる提案をされた、と思われていないだろうか?」
などなど、設計以外の心配事が頭の中をぐるぐるまわります。
正直、やりにくいのです。
しかも、設計の途中で
「これくらいは大丈夫なので追加してほしい。」
と小出しにされると、継ぎ接ぎだらけの設計になりかねません。
はじめに、予算をはっきり伝え、建築家と一緒にその範囲内でできることを最大限叶えた方がよいでしょう。
2.どの建築家にするかはっきり決めておく
前半で言いました、審査には図面が必要ということに繋がります。
建築家も、正式には土地が決まってから設計の契約をするのが普通ですが、契約をしてくれるとわかっていれば、住宅ローン用の仮図面くらいは書いてくれます(費用がいるかも知れませんが)。
住宅ローンの審査用の図面は、詳細な図面は必要ありません。
規模を知りたいのが主な要件です。
3.設計概算見積もりを書いてもらう
建築家も規模がわかれば、予算立て用の概算見積もりは書いてくれる場合も多いです。
あくまで、設計の立場からの概算見積もりにはなりますが、住宅ローンの審査用には提出できます。
まとめ
解決策をもっとお伝えできないのが心苦しいのですが、これが現実です。
私は常々、建築家をご紹介しながら建築家との家づくりをお手伝いしています。
この住宅ローンの手当が仕事の大きな部分を占めています。
私は建築士でもありますので、住宅ローン用の図面を書いたり、協力工務店と見積もりを作成したりしながら、少しでもお施主さんに有利な住宅ローンを利用してもらえるよう努めています。
それでも、お施主さんの条件は様々ですので、審査を通すのは山あり谷ありの連続です。
設計施工分離の住宅を経験したことのない金融機関もあり、その場合、話すら聞いてもらえない事もあります。
建築家との家づくりは、家を買うのではなく、家を建てる感覚を持っていただかないといけません。
家を建てる気持ちで、住宅ローンを一つずつ障壁をクリアしていくしかないのかもしれません。
しかし、すべてクリアされた先に、他では手に入れられない本当のご自身の住まいを手に入れることができます。